2013年6月19日水曜日

フェリスの女の子・・・(後編)

高校3年の時、神奈川の片隅に住む、井の中の蛙でありながら、僕は、本当の格好良さとは、可憐さとは?を、ずっと考えていた。流行やマスメディアの情報に疑問を持つ、そんなマイノリティの高校生は学校でも浮いた存在だが、唯一この感覚を分かち合える親友がD男だった。彼は野球部のエースの座を断念せざるを得ない状況に陥ったが、持ち前のチャレンジ精神を発揮して、今度は「英語の弁論大会」に挑んだ・・・もちろん彼の応援をしたことは言うまでも無いが、その影には下心があった事も認める。会場となったのは「フェリス女学院」その何か魅惑的なカタカナ表記にトキめいたのだ。まあ、今更言い訳がましいけど、そこには何か「答え」のようなモノがある気がしたのも事実だった。

弁論大会当日、D男は素晴らしい才能を見せた。壇上に登り英語でスピーチする彼の姿はとてもカッコよかった。野球部のエース復活!英語が堪能な県下の並みいる競合を三振に抑えた。まさにそんな感じだった。好調のD男の前に、最後に立ちはだかったのは、地元フェリス女学院から選出された3年生。D男は優勝するかもしれない!?と、浅はかな思いに浸っていた瞬間。彼女に逆転ホームランをかっ飛ばされた!それも簡単に・・・D男は易々と撃沈されてしまった。実力にはっきりとした差があった。落ち着いて考えてみれば、彼女が壇上に登った時点で勝負はついていたのだ。フェリスの女の子は、それ程に特別な存在感を放っていた。

言うまでも無く、弁論大会は彼女が制した。その後の親睦会で、僕はその存在が気になってしかたが無かった。彼女はさっきまで羽織っていた赤いカーディガンを脱いで、水色のセーラーカラーが印象的なフェリスの夏服姿で友達と話していた。その伝統的なセーラー服が、まるで部屋着のように身体に馴染んでいる。その姿が本当に可憐で、僕は思いきって声を掛けた「優勝おめでとうございます」・・・すると彼女は「優勝してもあまり嬉しくない」と、ニコッと応えた。思いがけないひと言に一瞬戸惑ったが、まったく嫌みを感じさせない、スカッと抜けたその笑顔には、不思議な説得力があった。だってあのD男をいとも簡単に撃沈し、まるで昼休みに友達と会話をするような感覚で、サラッと優勝してしまったのだ。聞けば英語は日常の中で独学で学んだという。世の中にはこんな女の子がいるのか・・・と、僕はトキめくと同時に、何か答えのようなものに出会った高揚感で、その時一杯になった。

彼女はいつも堂々としていた。そして質素でもあった。その謙虚な姿勢が、返って奥に潜んでいる何かを想像させ、人としての魅力を倍増させた。堂々と謙虚に振る舞う。彼女が纏っていた独特の空気感は、そんな身のこなしから生まれていたのだ。彼女は自分の信念で生きていた。かっこよかった。僕は本当に夢中だった。歩調を合わせるように背伸びもした。そして、たくさんの勇気も貰った。伝統のセーラー服を纏って、自由に舞っているその姿は、まさに希望の象徴であり、僕はそれを追いかけた。そして、いつしか色褪せない記憶の彼方へ仕舞い込みたいと、思い始めていたのだ。

制服少女が持つ最大の魔力は、制服そのものが持つ伝統と、それを着こなす本人の魅力が融合したときに発揮される・・・そんな魔法にやられてしまった最初の存在が、まさにこのフェリスの彼女だった。人にはたまに自身に影響を与えるような出会が訪れる。それは、自分を見つめ直し、ひと回り成長できるようなきっかけを与えてくれる。作品には重みがあり、創作はモデルたちとの能力の結晶だ。僕はその存在たちに感謝している。これから出会うであろうモデルたちに、そしてフェリスの女の子に・・・














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