2013年6月7日金曜日

フェリスの女の子・・・(中編)

僕の3年間の高校生活の中で、D男という親友が居た。D男はスポーツ万能で、成績もよく、爽やかな好青年だった。当時の母校は野球が強く、ともすれば甲子園出場も夢ではない好成績をたたき出していた。D男はそんな野球部のエースの座を約束されたヒーロー的存在でもあったのだ。体育会系の縦社会が大嫌いだった自分は、当時もっぱらの帰宅部。そんな真逆の存在であったD男と、親しくなったきっかけは、彼を襲った災難だったのかもしれない。幸か不幸か分からないが、彼は身体の故障で、野球を断念しなければならなくなったのだ。そんな訳で暫くは抜け殻状態のD男だったが、ちょっとしたきっかけで彼との共通点を見い出し、彼を励まし、新しいビジョンを一緒に描いて、卒業後の夢をお互い語り合い始めた。そんな時間が真逆の性格であったD男との距離を縮めてくれた・・・

そんな彼との学校生活が続いた数ヶ月後のことだった。D男が突然僕に訳の分からない事を言って来た「オレ、英語の弁論大会に出場するぜ!」「はぁ・・弁論?・・?英語??」僕は狐につままれたような気分だったが彼の目は本気だった。久しぶりの野球部の目だ。その大会というのは、神奈川県下の高校から英語が優秀な生徒が選抜され、自身を英語でアピールするというコンテストらしい。メチャクチャ難易度が高いことはすぐに想像できたが、そのチャレンジ精神がとてもD男らしく、そんな彼を純粋に応援したいという気持ちで、その時僕は一杯になった。しかし、そんな無垢な思いも、すぐに不純なものへと変わったのだ。「大会の会場はフェリス女学院!」僕はその表記に釘付けになった。フェリスといえば、神奈川を代表するお嬢様女子校であり、福岡の福岡女学院などに次いで日本最古の女子校にもランクされる、歴史と伝統が宿る学び舎である、どんな女の子がいるのだろうと想像しながら僕はトキめいた。これはもうD男を応援に行くしかない!彼には申し訳ないが、その時、僕はD男の出場などどうでもよくなっていた・・・

大会当日、その瀟洒な佇まいのフェリスの講堂に居たD男の関係者は、案の定、僕と英語の先生だけであった。プログラムには名だたる県下の名門校から選抜された生徒の名前が連なっている。その厳粛な空気に圧倒されて自分も緊張してしまった「D男が恥をかかなければよいが・・・」そんな心中を察してか、D男は緊張しながらも何とか余裕の表情を作って僕と先生に見せてくれた。彼のスピーチが始まった「おっ・・すごいぞD男!」彼は壇上で生き生きと喋った。英語なので内容は正確には分からないが、いつものD男では無い。身振り手振りのジェスチャーがまるで外国人のようだ。2ヶ月間の特訓の成果が出たのだ。審査員の外国人にもウケていた。彼はとてもかっこ良かった。まさに野球部のエース復活!僕はその時、D男の親友でいることをとても誇らしく思えた。その後の出場者数人もD男の敵では無く、もしかしたら彼は優勝するかもしれない!そんな希望さえ実感できたのだ・・・湧き出た得体も知れない興奮も覚めないまま、最後の生徒が壇上に姿を見せた。地元フェリス女学院から選抜された3年生である。制服の上に羽織った赤いカーディガンが印象的な彼女。が、何かが、他の出場者とは違っていた。歩き方や、壇上での立ち振る舞いに、今までに無い別次元の余裕を感じたのだ。この子は只ものでは無い・・・纏っている空気感もまるで違う「どんなスピーチをするのだろうか?」僕はその女の子に釘付けになった。そして、彼女が喋り始めたとたん、会場内の空気が明らかに一変した・・・(続く)










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